2006年度1学期後期「実践的知識・共有知・相互知識」 入江幸男
第2回講義 (April. 18. 2006)
§2 実践的知識とは何か
ここで「実践的知識」と呼ぶのは、アンスコムが、『インテンション』(1957、第二版1963)の中で提案した概念である。ここでは、以下の2著を引用しながら説明する。
アンスコム著『インテンション』(第二版の訳)管豊彦訳、産業図書、1984年。
菅豊彦著『実践的知識の構造』勁草書房、1986年
1、人間の振る舞い(動作、動き)の分類
アンスコムは、人間の振る舞いを次のように分類する(Anscomb, 前掲書、§16、菅、p.81)
1<知らない>(板を鋸で挽いているときに、大きな音を立てて隣人に迷惑をかける)
2<(ある記述の下において)知っている>
21<観察に基づいてはじめて知る(間違って風邪薬を飲んでいることを)>
22<観察に基づかないで知る>
221<その動作が何故生じるか観察に基づいて知る(非自発的行為)>
(医者がひざを叩いたので、ひざが上がる。くしゃみ、あくび)
222<その動作が何故生じるか観察に基づかないで知る(心的因果性)>
2221<心的原因>
「窓から顔が突然ぬっと現れてびっくりして飛び上がったのだ」
2222<動機>
a<過去指向型の動機> 復讐、感謝、後悔、哀れみ
(善悪の観念が含まれている)
b<動機一般>虚栄心、愛情、好奇心など
(その行為をこの光のもとで眺めよ)
c<未来視向型の動機(意志)>
〜するために、目的を述べる言明に見られるように未来の出来事へ言及
<課題:この分類に対する疑問事例を挙げてください>
例えば:貧乏ゆすりを人に指摘されて、それに気づくとき。これは、観察に基づいて初めて知るのだろうか?